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住み継ぐ人々

長い海外暮らしの後、美しい丹波篠山の古民家を受け継いで

長い海外暮らしの後、美しい丹波篠山の古民家を受け継いで

京都府と大阪府の県境、兵庫県の中東部に位置する丹波篠山市。
丹波の黒豆や小豆、丹波栗、そして日本六古窯のひとつである丹波焼が有名なこの地域は、かつて”丹波国”として京都への交通の要として栄えてきた歴史があり、京の文化に影響された町並みや祭りが脈々と大切に受け継がれています。

丹波篠山の城下町から市内を南北に流れる篠山川沿いの道を車で20分ほど走った田園地帯に、「農家民宿DEN」はあります。
宿を営むのは田川剛さん・美英さんご夫妻。

丹波篠山 古民家 移住

長年香港に拠点を置き、活動していたおふたり。
剛さんはキャビンアテンダントとして空の旅を羽ばたき世界各国を訪れ、美英さんは日本語教師として日本語や日本の文化を数多くの人に教えてきました。
剛さんは目まぐるしく変化する香港での暮らしの中で「いつかは日本に戻って、日本の田舎の良さを外国の人たちに伝えたい」という思いを、ずっと温めてきたそうです。

大阪府のベッドタウンで生まれ育った剛さんは、大阪からほどよい距離にある岡山や滋賀、奈良などを移住先の候補として情報を集めていました。
そんな候補のひとつだった、丹波篠山。
香港での忙しい仕事の合間に夫婦で何度か丹波篠山に通ううちに、昔ながらの風景が残るまちの雰囲気や、実家のある大阪からの交通の便の良さに惹かれていきました。
丹波篠山 移住

古民家に住みたいわけではなかった

築150年の民家の一部を「農家民宿DEN」として運営し、田川さん夫妻も同じ屋根の下で生活を営んでいます。
「特に古民家に住みたいと思っていたわけではなかったんです」と話す、剛さんと美英さん。

「丹波篠山にに住みたい」と強く思うようになったけれども、賃貸、売買含めなかなか丹波篠山で暮らす”家”が見つからず、篠山を諦め他の地域への移住も考え始めていたといいます。

そんな折、香港からインターネットで物件を探していたけ時に見つけたのが、この家。
すぐに内覧の申し込みをし、篠山へ飛びました。
そして内覧からわずか1週間で購入を決めたのだとか。

「昔ながらの茅葺屋根の建築と、のんびりした田園風景が広がるこの集落なら外国の人にも喜んでもらえるのでは」と思ったのが大きなきっかけだったと剛さんは話します。

丹波篠山 移住
前の持ち主のお母様の生家だったこの建物は、大切に手入れされていて、引き渡し前に不要な荷物も前の持ち主が整理してくれました。
そのおかげで、越してきてすぐに暮らしを営むことができたそうです。

丹波篠山 古民家
玄関を入ると建物の真ん中を土間が通り、奥へと続きます。
玄関脇の高い框を上がった部屋を宿の客室に。
手前側に3帖ほどの小さな部屋があって、冷蔵庫やソファ、身だしなみを整える道具が揃えられています。

丹波篠山 古民家 移住
床の間のある奥の8帖の部屋がくつろぎ客室のメインルーム。
小さな文机の上には、何冊か本が置かれてあります。
「僕たち夫婦は本が好きで、お客様が好きそうな書籍を選んで置かせてもらいました」と、田川さん。
そのセレクトがツボをついていて、”ゆっくり宿を楽しんでほしい”という心遣いがとてもうれしかったです。
広縁からは美しく手入れされた庭を眺めながら、ロッキングチェアに座って本を読む時間はなんとも至福の時間でした。
丹波篠山 古民家 移住

ほどよく手を入れ、住みやすく

田川さんご夫妻の居住空間とはドアで仕切られており、土間を奥へ進むと食堂とおくどさんのある台所が。
食堂の上は立派な梁があらわしになっていて、開放的な空間となっています。

丹波篠山 古民家
この家に住み始めてしばらくして、大工である美英さんの叔父に工事をしてもらったそうです。
プロの手を借りつつ、できるだけ元の家の状態を保ちながら、自分たちが住みやすいようにDIYで手入れをしていきました。
立派なおくどさんは、今も現役。
知人に譲ってもらった だるまストーブと排気口を同じにし、煙突は剛さんが自ら工事したのだとか。
おくどさん 丹波篠山
だるまストーブ
夜は、剛さんお手製の丹波地鶏のすき焼きをいただきました。
篠山で作られたクラフトビールとともに美味しくいただきながら、旅の話や香港での暮らしと篠山暮らしの違い、そしてこれから田川さんご夫妻が挑戦してみたいことなど、話が弾み、夜が更けていきます。

丹波地鶏
丹波クラフトビール
20年と長い間 香港で暮らしていた剛さんと美英さん。
その間に香港は目まぐるしく、いろんなこと変わっていきました。
だからこそ、変わらないこと、変えないということは今の世の中では大変難しく、尊いものだということを学び、この家で”変わらないもの”を守っていけたらと、穏やかに話してくれました。

丹波篠山 移住
屋敷の奥には蔵もあり、ここはまだ手付かずのまま。
近い将来ホームシアターにしたいと、剛さんは声を弾ませます。

日本の風景を守ってきた先人に感謝、そして未来へ

宿をはじめてすぐにコロナ禍となってしまい、当初予定していた海外からの旅人をもてなすことが難しい時期が続きました。
一方で日本国内から旅人が訪れ、丹波篠山での暮らしを伝え楽しんでいただけたといいます。
通訳案内士の国家資格を持つ剛さんは「コロナが収まったら、海外からのお客さまにさまざまな日本の文化や暮らしを体験していただけるプログラムを行い、外国の方に日本の良さを知ってもらえる橋渡し役をしていきたい」と目を輝かせます。

また、この美しい集落を次世代に受け継いでもらえるか、地域の人たちと共に考え活動する機会も増えてきたといいます。

「今まで苦労して日本の田舎を守ってくださった先人の方に、深く感謝するようになりました」
その言葉がとても印象に残った丹波篠山の旅でした。

丹波篠山 移住

農家民宿DEN
https://www.airbnb.jp/rooms/51184209

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