築110年の家を手を加えながら住む
鳴門市で設計事務所を営む福田頼人さんは大阪で育ちました。
子どもの頃から町歩きが好きだった福田さんは、学生時代はバックパッカーとして世界中を旅して、さまざまな建築を見て回ったそうです。
大学で建築を学び始めた当初はアバンギャルドな建築に傾倒していたという福田さん。
けれども、そうした数々の旅を通して「なんで日本の古い建築を見ていないのだろうか」と、ふと思ったと言います。
入主屋屋根の建物は築110年の主屋、左にあるのが離れ。それ以外にもいくつかの建物があります。
そして母親の実家のある鳴門市に移住、徳島の大手設計事務所に勤めたのち独立『くすの木建築研究所』を営んでいます。現在、福田さんはそのお母様の実家の離れを改築して事務所にし、同じ敷地にある主屋を住居として家族4人で住んでいます。
かつては自宅、現在は事務所
広い敷地の西側に位置する事務所に入ると、太い立派な梁が目に飛び込んできます。
納屋として使われていたこのスペースは、現在も作業場として使われており、福田さんがあちこちで集めてきた照明器具や建築パーツやカタログなどが置かれています。
この奥が事務所スペース。
床の間や欄間などはそのまま生かしつつ、モダンな照明器具や名作椅子がインテリアに用いられていて、”和洋折衷”のおおらかで豊かな空間となっています。
「主屋のリフォームが完成するまでは、ここで家族3人で住んでいたんですよ」と、福田さん。
台所は主屋に、お風呂は主屋を挟んだ敷地の東側の離れにあったため、まだ小さかった息子さんを育てながら住むのは不便だったけれども「なんとかなった」と笑います。
年数をかけて、作り上げた主屋の空間
現在暮らしを営んでいる主屋も案内してもらいました。
広い玄関は福田さんが好きな建築家フランク・ロイド・ライトが愛した大谷石が使われています。「栃木県の大谷石、好きなんですよ」と福田さん。 福田さんが住むのは大谷焼きで有名な鳴門市大谷町なので「ご縁を感じる」と言います。
趣味の自転車が並ぶ広い玄関。明るい光が差し込みます。
「うわぁ!素敵!」 リビングに入って思わずseeのスタッフの声が漏れます。
太い立派な梁が見えるあらわしの天井、左官職人の手によって丁寧に塗られた壁、そしてカラフルなタイル張りのキッチンにさまざまなデザインの照明器具。
家具などは夫婦で時間をかけてひとつひとつ選んで揃えていき、大きなソファは最近新調したものだそう。
「うわぁ!素敵!」 リビングに入って思わずseeのスタッフの声が漏れます。
太い立派な梁が見えるあらわしの天井、左官職人の手によって丁寧に塗られた壁、そしてカラフルなタイル張りのキッチンにさまざまなデザインの照明器具。
家具などは夫婦で時間をかけてひとつひとつ選んで揃えていき、大きなソファは最近新調したものだそう。
取材中、運動神経が抜群だという娘さんは部屋の中で楽しそうに遊んでいます。
キッチンの奥はウッドデッキになっていて、コロナの自粛期間中はここで家族揃ってごはんを食べることが「とてもいい気分転換になった」と福田さん夫婦は振り返ります。
現代の技術をいかして、古い建築で快適に住まう
こうして住居を案内していて気付いたのは、寒い冬の日だったにもかかわらず、部屋の中がとてもあたたかいということ。
「熱交換器を導入した空気循環システムを入れているから」と、福田さんは説明してくれました。
住居内で暖められた空気は各所に設置された排気口へ、床下で花粉やPM2.5などを排除した新鮮な空気と交じり熱交換器によって循環されているという。よって広い室内が冬は薪ストーブ1台でしっかりあたたまり、夏も涼しく過ごせるのだとか。
「古い家のいいところを生かしながら、現代の技術をしっかり用いることで快適に暮らすことはできるんですよ」と福田さんは言います。
まだまだこの主屋は手をかけていく予定だと、福田さん。 暮らしながら住まいを育てていくことができるのも、古物件の醍醐味だと言えます。
福田さんは、徳島の古い民家やまちなみの調査を行いつつ、日本のモダニズム建築の礎をつくった1人・建築家の増田友也氏が鳴門市で多く手がけた「増田建築」の魅力を広く伝える活動も行っています。
鳴門市文化会館や島田島小学校など、福田さんが粘り強くその価値を伝えて続けてきたことによって、60年近く前に建てられた建築の価値が見直されてきました。
福田さんの事務所の近くにある大谷焼窯元の登り窯。
古いものの価値を正しく見出し、今の時代の暮らしに合った住まい方を、”建築のプロ” として思考錯誤して楽しみながら自ら実践している福田さんの住まい方に、seeはとても共感しました。