see

住み継ぐ人々

バングラデシュを経て、神山の古民家でゲストハウスを

バングラデシュを経て、神山の古民家でゲストハウスを

「サテライトオフィス」や「ワークインレジデンス」で全国の注目を集め、多くの若者が移住している神山町。
鮎喰川のせせらぎを背に、すだちの花が咲く石積みの段々畑を登っていくと「神山とくらしの宿 moja house」にたどり着きます。

“moja”はベンガル語で「美味しい」「楽しい」という意味。
宿を営む北山歩美さんは千葉県出身で、海外青年協力隊員として2年間バングラデシュで働いた経験を持ちます。
くせっ毛の歩美さんのニックネームが”moja”で、神山では本名より”moja”の名で親しまれているのだとか。
その名にちなんでつけられた”moja house”で、2018年春から歩美さんが一人で住み始め、2019年に宿としてオープン、その後結婚し現在はご主人とこの家で暮らしながら旅人たちを暖かく迎え入れています。

moja house 神山 ゲストハウス

バングラデシュを経て、神山に地域おこし協力隊として移住

バングラデシュで現地の人たちと地域づくりに関わる仕事をしていた歩美さんは、日本の地方でもそうした仕事をしたいと思い、地域おこし協力隊として神山町に来ました。
バングラデシュでの経験を活かし、積極的に地域の人と関わり、すだちや梅といった町の特産品のPRなどに忙しく取り組んでいた歩美さん。
神山の人たちの”他所から来た人との程よい距離感”をとても居心地がいいと感じ、任期終了後も神山に住むことを考え始めます。

旅が好きだった歩美さんは、ゲストハウスの運営を視野に物件を探し始めます。
とはいえ、移住希望者が引けを切らない神山町では、空き家物件を見つけることがそもそも困難。
町内で物件を探している人と空き家をつなぐ活動をしているNPOの知人に早くから声をかけ、いくつか物件を紹介してもらったけれども、ピンとくる物件になかなか出会えなかったといいます。

神山 ゲストハウス moja house
現在moja houseを営んでいる住まいは、賃貸物件。
徳島市内に住む大家さんのお母様が住んでいた家屋で、空き家となった後も大家さんがよく手入れをされていてとても状態が良かったそうです。
そして何より部屋からのこの景色がとても気に入りました。

とはいえ、はじめは「この場所で宿をやりたいということを話すと、貸すことを断られるのではないか」と、不安に思ったのだとか。
けれども正直にそのことを話すと、大家さんは快く受け入れてくれ、協力隊としての任期の最後の1年はこの家を住まいにし、少しずつ宿を作っていきました。

神山 ゲストハウス moja house

プロに頼むこと仲間の力を借りることを、線引き

ゲストハウスとして客を迎えるにあたって、耐震や強度などはできるだけプロの手を借りてしっかりしておきたいと思った歩美さんは、まず一級建築士の友人に相談しました。
床下や躯体の状態を見てもらうと、シロアリの被害に遭っていたので業者に見積もりを取り、その値段が妥当であるかどうかも建築士の友人に相談することができたといいます。
躯体の修繕や左官壁のあく止めはプロの手を借りました。

床張りは、『全国床張り協会』の世話役を務める石川翔さんに相談。
『全国床張り協会』とは「床さえ張れれば家には困らない」を合言葉に、空き家の床を張る合宿を実施し、床張りの技術を普及している団体で、石川さんは徳島支部長を務めています。
石川さんも同じ徳島県内の勝浦町に移住して自らの古民家を改修する経験を持ち、歩美さんが相談を持ちかけると全国から床張りをしてくれる仲間を多く集めてくれたそうです。
「10人くらいの人が集まってくれて、2日間ほどで床が張り終わりました」と歩美さん。

床張り協会

その後、壁の漆喰を塗る際にも友人など仲間に声をかけると、多くの人が集まってくれて、壁を白く塗ってくれたのだとか。
「下地処理をプロに頼んでいたので、塗る人によってそれぞれ味が違うのもいい感じに仕上がりました」と、歩美さんは振り返ります。

資金は貯金と、行政の補助金をうまく活用

若くして起業した歩美さん、ゲストハウス開設のための資金を尋ねてみました。
これまでの貯金と行政の補助金をうまく活用し、借金はゼロで始めることができたそうです。
地域おこし協力隊の3年という任期を意識し、任期終了後を見据えて地域の方々と信頼関係を築き動いてきたからこそできたことのように思います。

2019年3月に地域おこし協力隊の任期を終え、4月にゲストハウス「神山くらしの宿 moja house」をオープン。
オープン前には神山町の方々を招いて内覧会を行い、たくさんの励ましの言葉をもらったと言います。
神山 ゲストハウス

宿泊客の多くが希望するのが、夕食作り体験。
自分の畑で採れたものや、地域の人におすそ分けしてもらった野菜や米、地元の産直市で買ったものを使って献立を決め、みんなで作って食べているそうです。
「こうした”食”を通して、リアルな神山の暮らしを伝えていきたい」と歩美さんは穏やかに話します。

moja house

突然のコロナ禍も工夫で乗り切る

宿を開業して間も無く1年を迎えようとする頃、突然コロナ禍が襲います。
緊急事態宣言の発令で、宿を閉じざるをえなくなった歩美さん。
近所の人や友人たちが心配をし、さまざまなアルバイトを紹介し収入を得ることができたそうです。

けれども悶々と悩む日々。
そんな折、県外のゲストハウスが「オンライン宿泊」というイベントを開催していることをSNSで知り、あゆみさんは客として参加。
決められた時間にチェックインし、夕食を食べ、語らう時間を持ちました。
オンラインで繋がった「旅友」たちとかけがえのない時間を共有したあゆみさんは「自分の宿でもやってみよう!」と思い立ちます。

moja house ハーブティ

そして企画を立てSNSで参加者を募ると、さまざまな地域から「お客さん」が集まり、歩美さんの宿のもてなしを楽しんでくれたと言います。
少しコロナが落ち着いた頃、そうしてオンラインで参加してくれたお客さんが、神山町の歩美さんの宿にやってきてくれたこともあったそうです。

ようやくコロナ禍のトンネルの先が見え始め、宿を訪れる人も徐々に戻ってきました。
歩美さんの暖かな人柄に惹かれ、リピートしてくれる客も多くいるのだとか。

「ここに五右衛門風呂を作ろうと思ってるんです」と、建物の横の空き地を指差す歩美さん。
この宿を通して温めている計画がたくさんあるようです。

moja house

see代表と同世代の歩美さんが、今後 地域と共にこの宿をどう育てていくのか目が離せません。
「田舎暮らし」や「古い家を住み継ぐこと」についても、いろいろ考えさせていただくきっかけとなりました。
ありがとうございます。

カテゴリ

住み継ぐ人々 記事一覧