阿波池田佐野のまちなみ散策と古本家住宅
徳島で実直に活躍する建築士の方が中心となって、徳島の古い建築や街並みについて研究している「阿波のまちなみ研究会」というグループがあります。
阿波のまちなみ研究会の活動開始は1982、今から約40年前です。
私が生まれる以前からこのような地道な活動が続いていることが、とても意義深いと感じます。
「古民家や古い建築についての学びを深めたい」
そう思ってsee代表の元木もご縁を繋いでいただき、勉強会に参加させてもらっています。
とはいえ、業務多忙で参加できないことも多くなっていた折、世話役を務める徳島県建築士会会長の坂口敏司さんにお声がけいただき、三好市池田佐野地区の散策会に参加してきました。
徳島県西部の三好市池田町佐野地区は、かつての伊予街道沿いに面し、伊予や讃岐の接点に位置し古くから交通の要所でした。
また四国霊場六十六番札所・雲辺寺の遍路道もあったことから、古い街並が残る地域です。
2019年に三好市歴史的風致地区向上計画の重点地域に設定されたそうです。
特に印象に残っているのが、明治時代に建てられた「古本家住宅」です。
かつて酒造業を営み、第二次大戦の前には鉄道を使って高知や大阪方面まで出荷し、たいそう栄えていたそうです。
立派な建築や庭が当時の栄華をしのばせます。
この日は、この家で暮らしたお孫さんやご親戚の方が来て案内してくださいました。
まず驚いたのが、建築も庭もとてもきれいに手入れがされていること。
それでもお孫さんは「昔はもっと綺麗だったんよ」と言います。
お祖父様はたいそうこの庭を大切にされていて、決まった従業員にしか手入れをさせなかったのだとか。
そして孫たちをこの中庭に呼んで、いろんな話をしてくれていたと懐かしそうに話をしてくれました。
この中庭を望む座敷は床の間や脇床、書院がしつらえられており、黒々とした立派な材は140年以上の月日を経ても存在感を放っていました。
この座敷の奥になる北側には隠居部屋や女中部屋がありました。
玄関の脇にはお茶の炉を切った応接間や居間や広い台所がありました。
雲辺寺への遍路道であったことからこの周辺には宿場も多くあり、お遍路さんへのお接待などもよく行っていたそう。
「とにかく人がたくさん集まる家だったんですよ」とお孫さん。
次々に質問を投げかける まち研メンバーのみなさんの問いにも丁寧に答えてくださり、その顔は誇らしそうでした。
古本家住宅は国の登録有形文化財に登録されました。
文化財になったことによるご苦労も少し垣間見えました。
お孫さんは三好市の外へと嫁ぎ、今のこの家や先祖代々のお墓を守っておられるそう。
今回お声がけをいただいたことで私も初めて知った、池田町佐野の町並み。
板張りの上に漆喰で仕上げた壁が長く連なる古本家住宅の外壁は、交通の要所として栄えたかつての阿波池田の様子をうかがい知ることができました。
今後この住宅や街並みがより良い形で受け継がれるよう、私も関心を寄せ見守っていきたいと思います。
まずは関心を持って「知る」ことが何かを成すための大きな第一歩だと思うので。
阿波のまちなみ研究会のみなさん、お世話になりました。